研究遂行倫理指針情報

1.遺伝子解析研究についての一般的説明

九州大学医学院保健学部門検査技術科学分野では、佐賀大学医学部などと共同で、病気に関係する遺伝子を見つけ出したり、1型糖尿病感受性遺伝子の探索研究を行っています。本文書はあなたに、この研究へのご協力をお願いしたく、病気と遺伝子の関係、研究内容などについて説明したものです。この文書をよく理解した上で、あなたが研究協力に同意していただける場合には、「遺伝子解析研究への同意文書」に署名することにより、同意の表明をお願いします。もちろん、同意いただけないからといって、それを理由にあなたが不利益を被ることはありません。

以下に、遺伝子解析に関する説明と研究協力への同意に関わるいくつかの重要な点を説明します。

 

< 遺伝子とは>

「遺伝」という言葉は、「親の体質が子に伝わること」を言います。ここでいう「体質」の中には、顔かたち、体つきのほか、性格や病気に罹りやすいことなども含まれます。ある人の体の状態は、遺伝とともに、生まれ育った環境によって決まってしまいますが、遺伝は基本的な部分で人の体や性格の形成に重要な役割を果たしています。「遺伝」という言葉に「子」という字が付き「遺伝子」となりますと、「遺伝を決定する小単位」という科学的な言葉になります。人間の場合、数万個の遺伝子が働いていますが、その本体は「DNA」という物質です。

「DNA」はA, T, G, Cという四つの印(塩基)の連続した鎖です。印は、一つの細胞の中で約30億個あり、その印がいくつかつながって遺伝を司っています。このつながりが遺伝子です。一つの細胞の中には数万個の遺伝子が散らばって存在しています。この遺伝情報を総称して「ゲノム」という言葉で表現することもあります。人間の体は、約60兆個の細胞から成り立っていますが、細胞のひとつひとつにすべての遺伝子が含まれています。

遺伝子には二つの重要な働きがあります。一つは、遺伝子が精密な「人体の設計図」であるという点です。受精した一つの細胞は、分裂を繰り返して増え、一個一個の細胞が、「これは目の細胞」、「これは腸の細胞」と決まりながら、最終的には約60兆個まで増えて人体を形作りますが、その設計図はすべて遺伝子に含まれています。第二の重要な役割は「種の保存」です。両親から子供が生まれるのもやはり遺伝子の働きです。人類の祖先ができてから現在まで「人間」という種が保存されてきたのは、遺伝子の働きによっています。

 

<遺伝子と病気>

こうした非常に大事な役割を持つ遺伝子の違いはさまざまな病気の原因となります。完成された人体を形作る細胞で遺伝子の違いが起こると、違いのある細胞を中心にその人限りの病気が発生することがあります。これを体細胞変異といい、癌がその代表的な病気です。一方、ある遺伝子に生まれつき違いがある場合には、その違いが子、孫へと伝わってしまいます。この場合、遺伝する病気が出てくる可能性が生じます。

このように説明すると、遺伝子の変化が必ず病気を引き起こすと思われるかもしれませんが、実際は遺伝子の変化が病気を引き起こすことはむしろきわめてまれなことと考えられています。たとえば、一人一人の顔や指紋が違っているのと同じように人によって生まれつき遺伝子に違いが見られ、その大部分は病気との直接の関わりがないことがわかってきました。また、人体を形作る60兆個の細胞では頻繁に遺伝子の変化が起こっていますが、そのほとんどは病気との関わりがありません。遺伝子の変化のうちごく一部の変化のみが病気を引き起こし、遺伝する病気として気がつかれるのだと思われます。

 

<遺伝子解析研究への協力について>

この研究は、遺伝子の作りや働き具合を調べ、あなたが今かかっている病気や将来かかるかもしれない病気との関係を調べます。最近、インターロイキン12という遺伝子やインターフェロンに関連した遺伝子、膵島細胞の生存に関わる遺伝子のタイプの違いにより、1型糖尿病にかかりやすさに違いがあることがわかってきました。そこで、あなたのインターロイキン12という遺伝子やインターフェロンに関連した遺伝子、膵島細胞の生存に関わる遺伝子を調べ、病気を引き起こしやすい配列の違いが見つかれば、診療に活かすことができます。しかし、診断方法は確実なものではなく、インターロイキン12という遺伝子やインターフェロンに関連した遺伝子、膵島細胞の生存に関わる遺伝子が原因となる遺伝子ではないことも考えられるので、この研究により違いが見つからない場合には、遺伝する病気にかかっているかもしれないし、そうでないかもしれないというどっちつかずの状況になる可能性もあります。ただ、私共はこの研究によって、病気が起こる機序を明らかにするために、原因となる遺伝子を新たに探し出すなどの努力を続けていきます。

あなたは、この病気にかかっていますので、診療記録とともにあなたの血液をこの研究に利用させていただきたいのです。

 

 

2.本研究についての説明

 

<同意の表明の前提>

(1) 研究協力の任意性と撤回の自由

この研究への協力の同意はあなたの自由意思で決めてください。強制はいたしません。また、同意しなくても、あなたの不利益になるようなことはありません。
一旦同意した場合でも、あなたが不利益を受けることなく、いつでも同意を取り消すことができ、その場合は採取した血液や遺伝子を調べた結果などは廃棄され、診療記録などもそれ以降は研究目的に用いられることはありません。ただし、同意を取り消した時すでに研究結果が論文などで公表されていたときには、完全に廃棄することができない場合があります。

 

(2) 研究計画

研究題目:1型糖尿病感受性遺伝子探索研究
研究機関名および研究責任者氏名:
この研究が行われる研究機関と責任者は下に示す通りです。

研究機関名:九州大学医学研究院保健学部門検査技術科学分野
研究責任者名:勝田仁
職名:教授

共同研究者:
安西慶三・佐賀大学医学部肝臓糖尿病内分泌内科・教授
永淵正法・佐賀大学医学部・客員研究員、九州大学名誉教授
宮崎徹:東京大学大学院医学研究科病態医科学・教授

ただし、この他に共同研究を行う研究機関や研究責任者が追加される可能性があります。

研究目的:
この研究は、1型糖尿病を発病するという生まれながらの体質があるかどうかを、血液などから取り出した遺伝子(インターフェロン関連シグナル伝達分子であるJAK-STAT系の遺伝子、および、Th1、 Th2免疫応答に関わるinterleukin 12を中心としたサイトカイン遺伝子、細胞の生存などに関わる遺伝子多型)を調べることによって、発病に関係のある遺伝子を明らかにするものです。

研究方法:
血液を通常の方法で約12 ml採取します。採血にともなう身体の危険性はほとんどありません。血液の中のDNAという物質を取り出し、これを調べることにより、1型糖尿病の原因となる遺伝子である可能性があるインターフェロン関連シグナル伝達分子であるJAK-STAT系の遺伝子、および、Th1、 Th2免疫応答に関わるinterleukin 12を中心としたサイトカイン遺伝子、細胞の生存などに関わる遺伝子の作りがわかります。この遺伝子の型が他の人とどのように違うかを調べ、さらにあなたの症状との関係を調べます。なお、採血の一部は、通常の臨床検査、自己抗体の検査、インスリン分泌能の検査、肥満に 関わるAIMと呼ばれる物質の測定などにも使用します。

研究計画などの開示:
あなたが希望されるならば、この研究の計画の内容を見ることができます。また、遺伝子を調べる方法などに関する資料が必要な場合は用意いたします。

 

(3) 試料提供者にもたらされる利益および不利益

あなたはすでに1型糖尿病と診断されていますが、この研究に参加されても、あなた自身の治療方針が大きく変わることはありません。ただ、あなたの遺伝子に原因となる変異が見つかった場合は、血縁者が同じ遺伝体質をもっているかどうかを同様の検査によって確かめやすくなります。

一方、あなたが受ける不利益としては、あなた自身の遺伝子解析結果が外部に漏れた場合、社会における不当な差別などにつながる可能性が考えられます。しかし、この研究では多くの方々を対象として、集団としての分析を行うのでその恐れはまずないと考えられます。それでも、万が一の漏洩による不利益を防ぐため、遺伝子を調べたあなたやご家族の機密保持については、機密保持のための責任者を置くなどの配慮をしています。

なお、研究成果を公表する際には、個人が特定される形では公表しませんので、それにより不利益を受けることはありません。

 

(4) 個人情報の保護

遺伝子の研究結果は、さまざまな問題を引き起こす可能性があるため、他の人に漏れないように、取り扱いを慎重に行う必要があります。あなたの血液などの試料や診療情報は、解析する前に診療録や試料の整理簿から、住所、氏名、生年月日などを削り、代わりに新しい符号を付けます。あなたとこの符号を結びつける対応表は九州大学医学部保健学科において厳重に保管いたします。このようにすることによって、あなたの遺伝子の解析結果は、解析を行う研究者にも、あなたのものであるとわからなくなります。ただし、遺伝子解析の結果についてあなたに説明する場合など、必要な場合には、九州大学医学部保健学科においてこの符号を元の氏名などに戻す操作を行い、結果をあなたにお知らせすることが可能になります。

 

(5) 遺伝子解析結果の開示

あなたの遺伝子を調べた結果についての説明は、あなたが説明を望む場合に、あなたに対してのみ行います。あなたの承諾や依頼がない場合には、たとえあなたの家族に対しても結果を告げることはいたしません。
また、あなたの遺伝子解析の結果、重大な病気との関係が見つかり、あなたやあなたの血縁者がその結果を知ることが有益であると判断される場合には、診療を担当する医師からあなたやあなたの血縁者に、その結果の説明を受けるか否かについて問い合わせることがあります。
あなたの遺伝子解析結果について説明を希望される場合は、血液採取後3年以内に申し出てください。それ以後はその結果を保管できない場合があります。

 

(6) 研究結果の公表

あなたの協力によって得られた研究の成果は、提供者本人やその家族の氏名などが明らかにならないようにした上で、学会発表や学術雑誌およびデータベースなどで公に発表されることがあります。

 

(7) 研究から生じる知的財産権の帰属

遺伝子解析研究の結果として特許権などが生じる可能性がありますが、その権利は国、研究機関、民間企業を含む共同研究機関および研究遂行者などに属し、あなたには属しません。また、その特許権などを元にして経済的利益が生じる可能性がありますが、これについてもあなたには権利はありません。

 

(8) 遺伝子解析研究終了後の試料などの取り扱いの方針

あなたの血液などの試料は、原則として本研究のために用いさせていただきます。しかし、もし、あなたの同意が得られるならば、将来の研究のための貴重な資源として、研究終了後も保管させていただきたいと思います。この場合も、(4)で説明した方法により、解析を行う研究者にはどこの誰の試料かがわからないようにした上で、試料が使い切られるまで保管いたします。
なお、将来、試料を研究に用いる場合は、改めてその研究計画書をヒトゲノム・遺伝子解析倫理審査専門委員会において承認をうけた上で利用します。

 

(9) 費用負担に関する事項

ここで行われる遺伝子解析研究に必要な費用は、文部科学省等の研究に対する助成金から出され、あなたが負担することはありません。ただし、交通費などの支給は行いません。

 

(10) 遺伝カウンセリングの体制

九州大学では、あなたやその家族が、病気のことや遺伝子解析研究に対して、不安に思うことがあったり、相談したいことがある場合に備えて、遺伝カウンセリング体制を整えています。あなたはここで、臨床遺伝医療部の医師に相談をすることができます。相談したい時は診療を担当する医師あるいは説明担当者にその旨申し出てください。

 

 

(担当医師)勝田仁
九州大学異学研究院検査技術科学分野
お問い合わせ先
九州大学異学研究院検査技術科学分野
勝田仁
電話 092-642-6677